「もちろん俺はその彼じゃないから、わからないけど……ただ、俺だったらそうかなって。間違っても紗希ちゃんを責めたりはしてないよ」
「それは……湊さんが、ただ人がいいだけでしょ」
やっと出るようになった声で言うと、湊さんは、ハハッと笑った。
「そんなことないよ。あんまり怒ったりしないから温厚には見られるけど……実は結構、薄情な人間だしね」
「薄情って……とてもそんな風には見えませんけど。どうして、そう思うんですか?」
まさか、という思いで言うと、湊さんは微笑んだまま眉をわずかに寄せた。
その顔が今までの笑顔とは違うように感じ、あれっと思う。
なんとなく……影のようなものが見えた気がして。
「じゃあ、どういう男に見える?」
笑みを作り直して聞いてくる湊さんには、私の問いに答える気はないようだった。
そんなに答えにくい質問だったかなとは思うものの、無理やり聞き出すつもりもない。だから、湊さんの問いに答えようとして……答えに困る。
だって、出逢ってまだ数時間しか経っていないのに、どういう人かなんてわからない。
でも、湊さんだってそのへんわかっているだろうし、真面目な意見を求めているわけではないんだろうと判断して、少し考えてから答えを口にした。
「構ってちゃん、ですかね」
意外な答えだったのか、湊さんは弾かれたようにポカンとしたあと「構ってちゃん?」と聞いた。
「あ、構ってちゃんっていうのは、周りの人に構ってほしいって思いの強い人っていう意味で……」
「いや、意味は知ってる。知ってるけど……え、俺、そんなふうに見えてた? 俺もう二十九なんだけど……」
二十九歳なのか。だとしたら若く見えるなぁと思ってから、本当に?と言った感じで聞いてくる湊さんに「まぁ」とうなづいた。
「迷惑だとかそういう意味合いじゃないですけど。だって、嘘をつく言葉より瞳のほうが信頼できるとか、そう思うなにかが昔あったのかなって気になるようなことをわざと言うし。
お礼だって物よりも一緒にご飯のほうがいいとか……気にかけてほしい人なのかなって。違いました?」



