「なにも言えない私に、彼は傷ついたみたいに顔をしかめていて……そのまま、終わりました。『終わりにしよう。好きだったのに、ごめん』って……」
そう言ったときの彼の顔は、今でも鮮明に覚えている。
「好きだって言ってくれたのに、私はなにも返せなかった。うれしかったのに、付き合っている間だって可愛くない態度ばかりで……彼を安心させてあげるための嘘さえつけなかった」
そのあと、すぐに卒業式がきて、彼がどうしたのかは結局わからないままだ。
受験勉強を頑張っていることは知っていたけど、その後どうなったのかはわからない。
もう終わったことだし、無理に関係を伸ばしたってどっちみち傷つけて終わってたのだから仕方ない。
そう割り切っても……彼の傷ついた顔だけが記憶に残り続け、思い出すたびに後悔を呼んでいた。
「付き合っている間、彼、何度も私に好きだって言ってほしいって言ってたんです。でも私はそういうことを口にするのは苦手だから、いつも嫌がってました。別に、言葉にしなくてもいいでしょって……。
そのころからたぶん、彼は私の気持ちが恋愛じゃないことに気付いてたんだと思います」
ずっと、不安にさせていたんだと思うと、今でも胸の中心が鉛でも埋まったようにズシリと重たくなり、カフェラテよりもずっと苦い感傷に襲われた。
「それからも、付き合った人はいました。真っ直ぐな目で好きだって言われると、高校のときの彼の傷ついた顔が頭をよぎるんです。
相手が本気だって思うと、拒絶する言葉が言えなくて……そうこうしているうちに、押し切られる形で」
傷つける……と思うと、なにも言えなくなった。
そのとき受け入れたって、きっといつか傷つけることには変わりないって、わかってたのに。
でも、幸い……と言っていいのか。私が心配していたような事態にはならなかった。
別れを切り出したのは、いつだって相手だったから。



