「さっき、道で話してたとき、誰かのためになるなら嘘がつけたほうがいい、みたいなこと言ってたけど、その話?」
まさか覚えていたなんて思わなかったから、聞かれて驚いた。
でも……聞かれたところで、わざわざ人にする話でもないし……。
そう思い、答えられないでいる私に、湊さんは「教えてよ。行きづりの俺相手なら紗希ちゃんが困るようなことはないんだし」と微笑む。
言われてみれば、たしかにその通りだけど……と、少し考えてから、諦めて口を開いた。
そういえば、この話を誰かにするのは初めてだ。
「高校三年生のとき、違うクラスの男子に告白されたんです。顔を見たことがあるってくらいの男子だったし、断るつもりでした。でも、その人は私の性格が好きだって言ってくれて……嬉しくなりました。
自分でも単純だなって思いますけど、それまで見た目を褒められることはあっても、性格を褒められたことってなかったから」
〝真面目で、でも本当は優しいところが好き。厳しいことも言うけれど、それは周りを思ってのことだし、そういうまっすぐなところに惹かれた〟
ごめんなさいと言おうとした矢先、照れながら言われたのは、そんなような言葉だった。
それだけで認められた気持ちになって、嬉しさのあまり頷いてしまったのだから、本当に単純だとは思う。
でも、自分でさえ、性格悪いなとか、今の言葉はキツすぎたなって思うことばかりなのに、それを見ていてくれて、そういう部分も好きだって言ってくれたことは……たぶん私のなかでは救いだったのかもしれない。
小さいころから、素直な思いを口にしたり、甘えたり、そういうことが苦手だった。
両親がドライな人たちで、必要最低限しか私と関わろうとはしなかったっていうのも大きいのかもしれない。
そのせいなのか、人との接し方がよくわからなくて。
極端な話、自分から話しかけるのは、今でも少しためらうほどだ。
話しかけようとしても、忙しいからとすぐに背中を向けられた、こどもの頃の思い出がいちいち頭をよぎって言葉を出にくくさせるから。



