私は普段、素直な態度はほとんどとらない。
そのせいで他人に気持ちを察されることなんて少ないから、余計そう感じるのかもしれないけど……全部を見透かされているようで、落ち着かない。
呼び方が〝森野さん〟から〝紗希ちゃん〟に変わったのは、このお店に入ってすぐだった。
本来なら、会ったばかりの人に名前で呼ばれるのは好きじゃない。
でも、この人とはどうせ今日かぎりだから、注意するのも面倒だと思い、放っておいてある。
人当たりがよくなく、さらに他人との距離をとりたがる私にとっては、こんなふうに名前で呼ばれるなんて高校以来だ。
そう考え……小さくため息を落とした。
なんで今日はこんなに思い出してしまうんだろう。いつもは心の奥にしまっている高校時代の記憶が、じわじわと漏れてしまっているようで気持ち悪い。
『――俺のこと、好き?』
そう問う彼に、嘘でも〝好き〟の言葉が言えていたら、彼はあんなに傷ついた顔をしなかったのだろうか。
そんな、何百回目かわからない、今更過ぎる思いを頭の中から振り落してからジェラードを口に入れる。
口の中に広がる冷たさと甘み。それを噛みしめていると、湊さんからの視線に気付いた。
「なんですか?」と聞くと、湊さんは頬杖をつきながらニコリと笑う。
「いや、紗希ちゃん、本当に可愛い顔立ちしてるなーと思って。待ち合わせする前に、電話で言ってくれたらもっと早く見つけられたのに。大きい二重の瞳に、形のいい鼻と口で人形みたいに可愛い顔立ちだって」
自分をそんな風に説明する人なんて、相当なナルシストだ。イタすぎるし、ありえない。
呆れながら適当に「そうですか」と相槌を打つと、湊さんは「冗談じゃなくて」と笑って続ける。
「よく言われない?」
「言われません。……そんなナンパの常套句、よく知ってますね。そんな外見してたら使う機会なんてないでしょ」
「いや、思ったこと言っただけだよ。その前に紗希ちゃん、俺のことカッコいいと思ってくれてたの?」
驚いたように言われ、眉をひそめた。



