テーブルの上には、湊さんが適当に頼んでくれたコース料理がのっていたけれど、そのほとんどはもうお腹の中だ。
サラダに帆立のカルパッチョに、モッツァレラチーズとベーコンのトマトパスタ、そしてマルゲリータピザ。
どれも、そのへんのファミレスで食べるものよりも数段上のおいしさがあって驚いた。
メニューを見ながら頼んでくれたのは湊さんだから、その金額は知らない。
お酒は私が断ったからか、湊さんも飲んでいないにしても、お財布のなかが心配になる。
だって、今現在置かれている立場を考えれば、どう考えたってこんな高そうなイタリアンを食べている場合じゃない。
やっぱり、強引にでもバームクーヘンを押し付けていればよかった、と後悔しつつ運ばれてきたデザートにフォークを伸ばす。
ドルチェの盛り合わせ、という、コースの最後に出てきたお皿の上には、ホイップクリームの乗ったガトーショコラ、ベリー系のタルト、そしてマンゴーのジェラードがのっている豪華な一品だった。
タルトを口に運び、無意識に「……おいしい」と独り言をもらしてからハッとして顔をあげると、湊さんがにっこりと微笑んでいて恥ずかしくなる。
聞かれてたみたいだ。
「甘いモノ好きなの?」
「女性で嫌いって方はあまりいないんじゃないですか」
恥ずかしさを誤魔化すように少し強い口調になりながら言うと「違うよ。紗希ちゃんが、好きかどうか聞いてるだけ」と言われ……パチパチと瞬きをしてから目を逸らした。
「……好きです」
「だよね。今までの料理にたいする反応と明らかに違うし、そうだと思った」
穏やかな表情で言われる。
もしかしたら今まで失礼な反応をしてしまっていたんだろうかと思い口を開こうとすると、その前に「ああ、今までがどうとかそういう話じゃなくて」と言われてしまった。
正直、本当に人の気持ちを察知するのがうまくて、なんとなく心地悪さを感じた。



