「ねぇ、クロエ」
青すぎるほど青い空に、「幸福な姫君」は小さなため息をひとつ。
窓枠に手をかけて、空を見上げていた視線を下へ落した。
「どうされました、リーラ様?」
クロエ、と呼ばれた侍女が、リーラのドレスのリボンを結びながら尋ねる。
クロエ・ノーラ・サナリアという名のその侍女は、リーラがウィオンに来たときから側仕えとして常にリーラとともにいる。
リーラにとっては、ウィオンで一番、本音を話せる人物であった。
窓辺には可憐な赤い薔薇が二輪、花瓶に生けられている。
国王アルザがリーラのために王宮内に作らせた庭に咲くその薔薇は、毎朝リーラが目覚める頃になると窓辺に生けられているのだ。
二輪のときも三輪のときもある。
前の日のものがそのまま生けられていたり、古くなったものは抜き取られたりしながら、それでも毎日一輪は新しい花が飾られているのだ。
きっとクロエが、少しでもリーラの気が休まるようにと、気を利かせてくれているのだろう。