カップの水面によく晴れた空が映っていた。


クロエの淹れてくれた花の香りのする琥珀色の茶に、羊の毛のようなふわふわとした雲がたゆたう。



 穏やかな午後だ。見上げた空がいつもより綺麗に見える。


不安の種だったアルザと朝に話ができて、心がすこし晴れたからだろうか。



 ざっ、と、草を踏む音がかすかに聞こえて、リーラは顔を上げた。



 神殿の入り口の方から、歩いてくる人影がひとつ。

背の高い、近衛兵の制服を着た男。



「レグナム、ごきげんよう」



「ごきげんよう、姫殿下。いいお茶会日和ですね」



 まっすぐリーラたちのいる方へ歩いてきながら、自然にそんなことを言ったレグナムに、リーラは驚いた。



「あなたって相変わらずすごいわ。見えないのに、お茶会をしてるってわかるのね」



「はい、カップの音で」



 こともなさげに言うが、この男はいつもそうやって音や気配だけで、まるで見えているかのように世界を感じ取る。