「あ、いえ、そういう意味ではなく! ……相談したいことが、あって、だから! 変な言い方をしてごめんなさい!」



「あ、あぁ、そういう……いや、俺の方こそすまない」



 そうだよな、婚礼の儀も済ませていないもんな、と、真っ赤な顔でごにょごにょと口の中でつぶやく。


王の威厳などかけらもない、そんなアルザの姿に、リーラは思わず吹き出した。



「ふふ、陛下、急がれませんとご政務が遅れますよ」



「あ、あぁ! そうだな、そろそろ行ってくる」



 アルザは言って、今度こそきびすを返す。


けれど、その一挙一動がどこかぎこちない。



 それを見てまたリーラがクスクス笑っていると、扉に手をかけたアルザが、ふと振り返った。



「リーラ姫」


「はい?」


「君は、姫ぶっていないときのほうが可愛い」


「は……?」



 顔が熱い。

二度目だ。

けれど、一度目とは確実になにかが違う。




「好きなときに来るといい。俺の妻を止める門衛などいないから、心配するな。俺がいなかったら中で待っていてかまわない」



 それじゃあ、と言って部屋を出て行くアルザを、リーラはなにも言えず見送った。



 足音が遠ざかっても、まだ頬の火照りは冷めないままだった。