王にぐしゃぐしゃと頭を撫でられ、子供は明るい笑い声を上げた。


つられたように姫も微笑み、「ありがとう、小さな紳士さん。大切にするわ」と言うと、子供の額に軽やかな口づけをする。



 兵士たちは頬を染め、民衆からは歓声が上がった。


人ごみの中で見ていた子供の母親は、王と王妃の恩情に涙を流した。



 心優しく美しい王妃と、快活で爽やかな王の睦まじい姿は、ウィオンとシュタインの和平、ひいてはウィオンの繁栄の徴(しるし)。


誰もが、二人の姿に国の未来を見た。


長きにわたる鎖国に疲弊した島国の民にとって、その姿は希望そのものだった。



 こうしてシュタインの姫は、民の敬慕と称揚のまなざしと共に迎えられた。




 姫の名はリーラ・セルディーク。




 後に〝海賊姫〟と名を馳せる、ヴェルフェリアの智の女傑の、これが、はじまりの物語。