不思議だ。

このひとの軽やかな声は、秋の心地よく乾いた風のように、不安に湿った心をさっと通り抜けて、淀んだ空気を洗い流してくれる。



「じゃあ、俺は政務があるからもう行く。昼にまたレグナムに様子を見に行かせるから、なにかあればレグナムに言ってくれ」



 そう言って、きびすを返そうとするアルザの袖を、リーラはとっさに引っ張った。



「あの、陛下」


「ん?」



 驚いたように、すこし目を見開いて、アルザはリーラを見下ろした。



 まだ、話したいことがある。


もっと、話すべきことがある。


疑う気持ちが消えたとしても、政のことを考えると、婚礼を急いだ方がいいのは変わらない。



 それに、――もっとこのひとを知りたい。



「今夜、お部屋にお邪魔しても?」



 とっさに口をついて出た言葉に、アルザは「え」と小さく声をあげて、右手で口を覆った。


その顔がほんのり赤いのを見て、リーラはハッとして首をぶんぶんと横に振った。