毎日、日も昇らないうちから起きて、夜も更けきった頃に自室に帰る。

そんな生活をしているのにも関わらず、花など侍女に頼めばいいのに、わざわざ毎朝リーラの部屋へ足を運んでいたのか。



 そっと手を伸ばして、リーラは花を受け取った。



「……ありがとう、ございます」



 それから、ごめんなさい。と、リーラは頭を下げた。



「わたくしったら、陛下を賊と間違えるなんて」



「謝らなくていいさ、そんなこと。むしろ恐怖にすくむことなく冷静に衛兵を呼ぶ豪胆さは、さすが俺の妻だ」



 軽やかに笑いながら言ったアルザの言葉に、リーラはカッと顔が熱くなるのを感じてうつむいた。



 何の気負いもなく言われた、「妻」というひとこと。

当たり前のように。

婚礼の儀を済ませていないことなど、すこしも障害ではないというように。



 アルザが会いに来ないこと、婚礼を先延ばしにされていることであんなに不安だった気持ちが、その一言で消え去った。


同時に、このひとを疑っていたことがひどく恥ずかしくなった。