メリーの否定の仕方があまりに必死で、リーラは声を上げて笑ってしまった。


そうしてから、声を上げて笑ったのが、ウィオンに来て初めてだったことに思い至った。



「……ねぇ、あなたたちが嫌でなければ、リーラって、名前で呼んでくれないかしら?」



 笑いすぎて目じりにたまった涙を指先でぬぐいながら、リーラは言う。



「え、ですが殿下……」



「殿下って、呼ばれ慣れなくって、なんか他人みたいで嫌いなの。それに、仲良くなりたい人には名前で呼んでほしいわ。駄目かしら、カイン、メリー?」



 リーラは王宮に味方が必要だ。

けれど、そうでなくても、純粋にこの二人と親しくなりたかった。



「では遠慮なく、リーラ様」



 まだ戸惑ったようなメリーに対して、カインの答えは早かった。



「またお暇があればいつでも神殿に来てください。夜這いの結果を楽しみにしています」



 ねえ、メリー。と、カインが言うと、メリーもややあって頷いた。



「そうですね。リーラ様、応援しております」


「もう、夜這いなんてしないったら」



 と、むくれた表情を作りながらも、それでも久しぶりの楽しい気分に、唇が笑みを作るのは止められなかった。