「ちなみに、わたしは前者です」
と、メリーが律儀に補足をしてくれる。なるほど、と、リーラは頷いた。
「もとは女神官だったから髪が短いのね。たしかサザラ教の神官は、女は髪を短く切り、男は逆に長く伸ばす習わしだったわよね?」
「――そうですよ。よくご存知で」
突如として響いた声は、カインのものでもメリーのものでもなかった。
驚いてあたりをきょろきょろ見回すと、一人の男が、宿舎へつながる神殿奥の通路から歩いてくるところだった。
その男には見覚えがある。
ウィオンに来たリーラを出迎えに来た者たちのなかに、その顔があった。
「これは、大神官長レーヴェ殿」
「リーラ姫殿下、ご機嫌麗しゅう。まさか姫殿下が神殿にいらっしゃるとは思わず、お姿をお見かけしたときは驚きましたよ」
レーヴェはつややかな輝きを放つ蜂蜜色の瞳を柔らかく細め、浅い礼をした。
はらりと肩から落ちた腰まである長い松葉色の髪に、白いものは一筋も混じらない。
四十をすこし過ぎた年頃だと聞いたことのあるこの大神官長は、実年齢に反して見目は若々しく、しかし柔和そうな穏やかな瞳だけは、年相応の知性をたたえていた。



