Leila -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅱ-




「ちなみに、わたしは前者です」



 と、メリーが律儀に補足をしてくれる。なるほど、と、リーラは頷いた。



「もとは女神官だったから髪が短いのね。たしかサザラ教の神官は、女は髪を短く切り、男は逆に長く伸ばす習わしだったわよね?」



「――そうですよ。よくご存知で」



 突如として響いた声は、カインのものでもメリーのものでもなかった。


驚いてあたりをきょろきょろ見回すと、一人の男が、宿舎へつながる神殿奥の通路から歩いてくるところだった。



 その男には見覚えがある。


ウィオンに来たリーラを出迎えに来た者たちのなかに、その顔があった。



「これは、大神官長レーヴェ殿」



「リーラ姫殿下、ご機嫌麗しゅう。まさか姫殿下が神殿にいらっしゃるとは思わず、お姿をお見かけしたときは驚きましたよ」



 レーヴェはつややかな輝きを放つ蜂蜜色の瞳を柔らかく細め、浅い礼をした。


はらりと肩から落ちた腰まである長い松葉色の髪に、白いものは一筋も混じらない。


四十をすこし過ぎた年頃だと聞いたことのあるこの大神官長は、実年齢に反して見目は若々しく、しかし柔和そうな穏やかな瞳だけは、年相応の知性をたたえていた。