物音に気が付いた二人も顔を上げ、男の方が琥珀色の瞳を丸くした。



「これはこれは。王妃殿下じゃあありませんか」



 この王宮では、リーラのことを「王妃」と呼ぶ者と「姫」と呼ぶ者の二種類いる。


まだ正式な婚礼の儀を執り行っていないためにどっちつかずになっているリーラとしては、初対面からリーラを「王妃」と呼んだこの男に、少なからぬ好感を持った。



「ご機嫌よう、神官様。それとあなたは……」



 近衛兵がなぜ神官と二人で神殿にいるのか。


彼女のことを何と呼んだものかわからず、リーラが戸惑っていると。



「彼女は神殿守りのメリーで、俺は……じゃなかった、わたしは、神官のカインです」



 と、神官の男がずいぶんと砕けた口調で紹介してくれる。


メリーと呼ばれた女が紫水晶のようなきれいな目を細めて、横目でじろりとカインを睨みつけた。


カインの柔和な顔が、困ったように笑う。



「言葉遣いのなっていない男で申し訳ありません、王妃殿下。この者は半分世捨て人のようなものですので、どうかご寛恕ください」