最初に王宮内を案内されたときに神殿には行ったことがあるが、それ以来は足を運んでいない。


政教分離の政策を敷いたばかりのウィオンで、たとえ王宮内であっても、宗教的な施設に王族が足を運ぶということが周囲にどう受け取られるものなのかわからないからだった。



 何を言われるか、ほんのすこし警戒しながら待ち構えていたリーラに、しかしレグナムの返答は軽快なものだった。



「もちろん、問題ございませんよ。ここはもうあなたの城でもあるのですから。すぐにお供を近衛隊から何人か用意いたしましょう」



「あら、それなら良かった。それじゃあ午後にうかがおうかしら。けれどお供は必要ないわ。呼び止めてごめんなさいね」



 隙のない礼をして部屋を出て行くレグナムの背を見送って、リーラはふたたび椅子に腰を下ろし、テーブルに置かれた焼き菓子を口に放りこんだ。



「クロエ、マナンって何かしら」



 レグナムのカップを片付けるクロエをちらりと見上げる。


クロエは困ったような曖昧な笑みを返し、首をかしげた。