「はい。
 ありがとうございます。

 それでは、今日も一日頑張ります」
と頭を下げて行こうとすると、掠れた声で、

「茅野」
と呼びかけてくる。

 振り返ると、
「お前、詐欺をやめるつもりじゃないだろうな」
と紙に書いてきた。

「なんでですか?」

「茂野が病気になって、情が湧いたんじゃないのか?」

「それは……」

 言い終わる前に、素早く次を書いてくる。

「一度始めたことは最後までやれ。
 俺は途中で投げ出す奴は嫌いだ」

「……はい」
と言って笑ってしまったが、カラッとは笑えなかった。

 いろいろと思うところがあったからだ。

「失礼します」
と行きかけ、戻る。

 穂積の書いた紙を手に言った。

「社長、これ、いただいてもいいですか?」

「これをか?」
と穂積は小さな声で言い、

『まあ、お大事にと伝えてくれ』
を指してくる。

 いえ、と笑い、茅野は、
「座右の銘にしたいんです」
と一枚取った。