「おはようございます」
と茅野が社長室を訪ねて行くと、

「おはよう」
と既にデスクに着いていた穂積は小さな声で言う。

「……大丈夫ですか?
 もしかして、声が出づらいですか?」
と問うと、

「たいしたことない風邪だったんだが、悪化したようだ」
と渋い顔で言う。

「病院行かれましたか?」
と問うと、いや、と言う。

「行った方が早く治りますよ。
 あの、声が出ないのなら、筆談でもいいんじゃないですか?」
と言うと、手間がかかるだろうが、と言ったが、目は目の前の白い紙を見ていたから、相当辛いのかもしれないと思った。

「いろいろとありがとうございました」
と快気内祝いの紙袋を渡すと、穂積は少し迷って、ペンを取り、紙に、

「もう治ったのか?」
と書いてきた。

 少し笑って、
「いいえ。
 でも、とりあえず、退院したので」
と言うと、

「まあ、お大事にと伝えてくれ」
と書いてくる。