「そのときは追いかけて抱きしめてチューしてあげたらいいじゃん。菜摘ちゃんなら喜んでくれると思うけど」
我ながらかわいくない態度だとは思う。
だって好きな人が別の女に言い寄られているのを見るのはおもしろくないのだ。
「バカか。あんなこと誰にでもできるかよ」
眉間にシワを寄せたまま辟易したように言い切る。
あんなことって……。
あの日感じた温もりやにおいがよみがえる。
あれが特殊な行為なんだって、ちゃんと自覚があるんじゃないの。
「……私にはしたくせに」
「マヤだからだろ」
「なにそれ」
期待が胸を埋め尽くし、どんなに顔に出したくないと思っても、熱が一気に顔に集中する。
次の瞬間、意地悪に口の端を上げた彼。
しまったと思っても、もう遅い。
「ははっ、マヤ照れてる」
ああ、やっぱり。
私はまた彼にからかわれただけなのだ。
私ばっかり感情を弄ばれて悔しい。
「じゃあ私、仕事に戻るね。ゆっくり話してる場合じゃなかった」
「まだ忙しいの?」
「洗濯洗剤の件は解決したんだけど、ディスプレイのデザインが決まらなくて」
ラブグリでフェアを行う際は、店舗の目立つ場所に専用の棚を設ける。
一目見て他の棚とは違う特別なコーナーであるとわかるよう装飾をしたり商品の配置を工夫したりするのだが、今回のフェアではそのデザインを私が担当することになっている。
今日ここに来た目的は、菜摘と話すことより、デザインのための店舗確認のほうが大きい。



