恋愛じかけの業務外取引


彼の回答に、菜摘の肉声と私の心の声が重なった。

「え?」

ちょっと待って、なぜ私?

直接的な言葉はなかったけれど、これって遠回しな合コンのお誘いだよね?

堤さんは営業仕様の爽やかボイスで続ける。

「僕、4月に東京に来てから仕事三昧で、こっちに友達って御社の山名さんくらいしかいないんですよ。男性の友人もいますがほとんど既婚者ですし、佐原店長にご紹介できる人は見当たらないです。お役に立てなくてすみません」

断った……よりによって私をダシに使って。

こんなにかわいい子からの、脈アリアリなお誘いなのに。

「や、やだぁ。オブラートに包んだつもりだったのにな」

微かに菜摘の声が震えた。

きっとこれまで、彼女の誘いをあっさり断る男なんていなかったのだろう。

私はいたたまれなくなって、彼らのいる隣の通路へ。

「菜摘ちゃん、やっと見つけた。堤さん、いらっしゃってたんですね」

我ながら白々しいが、聞いていましたとは言えない。

今ここに来ましたというふうを装って笑顔を振り撒くと、ふたりからも微妙な笑顔が返ってくる。

先に口を開いたのは菜摘の方だった。

「山名さん、お疲れさまです。ちょっと聞いてくださいよー。堤さんに合コンを申し込んだら、男性側に山名さんを連れてくって言うんですよー。ヒドくないですか? あは」

「えっ……」

さっきのってそんな話だったっけ?

たしかにそう捉えられなくはないけれど。

私と彼はシンクロしたように顔を見合わせた。