「……フルーツタルト」
「フルーツタルト! 嬉しい! 私、大好きなんだー。特にベリーのやつ」
香ばしいタルト生地と甘いカスタード、そして少し酸味のあるベリー。
味のハーモニーはもちろん、見た目にも美しくて嬉しくなる。
「あ、うん。ベリーのやつだよ」
「え? ほんと? わーどうしよう超嬉しい。運命だ」
私はますますテンションを上げるが、堤さんは変わらず照れを含んだ表情をしている。
「違うよ。運命じゃない」
「え?」
「いつかは忘れたけど。マヤが、前にそう言ってたから」
そのときのことは簡単に思い出せた。
たしか6月の終わり頃、うちの会社での打ち合わせ。
松田が入れた紅茶から、ケーキには紅茶かコーヒーかという話になって、好きなケーキの話に発展した。
そのときに私が言ったことを、彼は覚えていてくれたんだ。
そして私のために、私の好きなフルーツタルトを買ってきてくれた。
「マヤ、今週ずっと仕事キツかったじゃん? なのに今日も朝から俺のことやってもらってるし」
だって、それは私の償いだから。
あなたが申し訳なく思う必要なんてどこにもないのに。
「嬉しい……。本当にキツかったから、沁みる。堤さんって本当は優しいんだ」
今朝のブス発言からの差がすごい。
一日でここまで心を揺さぶられて、蛇口が壊れた水道のように、熱いなにかが溢れている。
「別に、俺も食ってみたいと思ってたし!」
彼は少し乱暴に言葉を付け足し、落ち着かない様子でメガネをいじる。
そんなふうに言ったって、もう“なんだ自分のためかよ”などと思えるわけがないのに。
こんな気持ち、もう自分が認めるとか認めないっていうレベルじゃない。
私はすでに、疑う余地もないほど、彼にすっかり心を奪われてしまっている。
私、堤さんが好きなんだ。



