11月に入ると、私は俄然忙しくなった。

通常業務に加えフェアに向けてイレギュラーな仕事が増えたため、最近は連日深夜残業。

特にここ数日は終電で帰っているため、毎日帰宅が午前さまである。

「ただ今戻りましたー」

今日は外出先から自社に戻って来られたのが午後5時27分。

しかし午後5時半から輸入代理店との打ち合わせが入っている。

「山名さん! よかった間に合って」

松田がホッとしたように声をかけてきた。

この時間になっても私が戻らないから心配してくれていたのだろう。

私も1本電車を逃していたら間に合わなかったから、内心とても焦っていたが、後輩である彼女の前でそんな顔をしてはいけない。

「ごめんね。ギリギリになっちゃった」

「先方はもういらしてます。第3ミーティングルームにお通ししてお茶を飲んでもらってますので、急いでください」

「ありがとう松田。自分の仕事が終わったらあがっていいからね」

「でも……」

「今日は終わりが何時になるかわかんないんだ。このあとの事務処理は自分でやっとくから、大丈夫」

「わかりました。よろしくお願いします」

松田が頷いたのを見届け、トレンチコートを脱ぎ捨てるように椅子に掛ける。

あらかじめデスクに準備しておいた資料を持ち、ミーティングルームへダッシュした。