ピーンポーン ピーンポーン……
チャイムが鳴ったのは、午後9時20分頃。
洗濯や掃除、夕食の準備を終えてひとりテレビを見ながらくつろいでいた私は、慌てて玄関へ走る。
「おかえりなさい」
堤さんはぐったり疲れたような様子だったのだが、私の姿を見るなりパッと表情を変えた。
「ただいまー。マヤがエプロン着てる!」
「料理をするときに汚れるから、買ったの」
「なんかいいな。仕事着の上にエプロンってミスマッチだけど、それが逆にリアル」
堤さんは靴を脱ぐのも忘れてジロジロと私の姿を眺める。
「なにそれどういう意味?」
小・中・高と、調理実習の際は決まってエプロンの似合わない女子として笑われてきたから、すっかり「ぎゃはは似合わねー」とか言われるつもりでいたのに。
『なんかいいな』なんて言われるとどんな顔をしていいかわからない。
そんな私に、彼はにっこり笑って言った。
「一瞬、マヤを嫁にもらったのかと思った」
私をイジるときの悪い顔でも、仕事中に見る異常に爽やかな笑顔でもない、彼の自然な笑顔。
こんな笑い方もするのかと驚いたのと同時に、胸がギュッと疼いた。
「わ、私は息子を持った気分だけど」
戸惑いを隠すようにそう言い返すと、彼はやっと靴を脱いで部屋へと上がり、私との距離をグッと詰め、問う。
「それって、俺との間に生まれた息子って意味?」



