「堤さんのおかげで、とても助かってるんですよ」
菜摘が嬉しそうに会話に混じってきた。
そう。彼女もまたりんりんファンのひとりである。
「いえいえ。仕事ですから」
そんなりんりん本人といえば、相変わらずのかわいい笑顔をしているが、今日は左頬のアザを隠してはいなかった。
もうずいぶんよくなっているから目立ちはしないが、私は後ろめたさからつい顔を逸らしてしまう。
「そういえば堤さん。その顔どうされたんですか? アザがあるみたいですけど」
なにも知らない菜摘が無邪気に尋ねる。
私は彼から目を逸らしたまま、黙って会話に耳を傾けることにした。
「ああ、これですか? ちょっと前に、山名さん……」
えっ、うそ。私が殴ったって言っちゃうの?
私は思わず彼に視線を戻す。
「……を口説こうとしたら、振られちゃいまして。その時に食らった一撃の跡です」
なにその微妙に真実を含めた作り話。
私の焦った顔を見て、彼はダークな笑みを私だけに向ける。
「やだー超ウケるー。山名さん拒否反応激し過ぎですよ―」
彼の話をちゃんとジョークとして捉えてくれた菜摘は、ケラケラと笑っている。
「やめてくださいよ……」
私は必死に笑顔を作って、乾いた笑いをこぼすことしかできなかった。
ちくしょう、堤凛太郎め。
まさかうちの社員を巻き込んでまで私をイジってくるとは思わなかった。



