この日の午後7時過ぎ。
私はスーパーで購入したカレーの材料を引っ提げ、堤凛太郎の自宅に到着した。
玉ねぎにんじんじゃがいもなどの野菜類、リクエスト通りの角切り牛、そして中辛のルー。
サラダとスープの材料も購入したため、なかなかの重量だ。
チャイムを押すと、今日もインターホンでの応答はなく、扉が先に開く。
「おおマヤ、お疲れ」
堤さんは仕事着であるスーツでも先日のような部屋着や私服でもなく、見るからに運動着。
肩にはスポーツバッグを提げている。
「お疲れさまです。お出かけですか?」
「ああ、ちょっとジムに。ていうか、敬語は禁止したはずだけど?」
「ああ、忘れてました」
「ん?」
「……忘れてた」
「よし」
なにこのやりとり。めんどくさっ。
私がどう喋ろうといいじゃないの。
堤さんは私と入れ替わりで靴を履き、車のキーを手に取った。
「俺もう出るから、あとは適当によろしく。帰りはたぶん9時過ぎになる」
「わかりました。その時間に合わせてお風呂とカレー、準備しておきます」
「マヤ?」
「……お風呂とカレー、準備しておくね」
「よろしい」
堤さんはご満悦な表情で私の頭に一瞬だけポンと手をのせ、部屋から出て行った。
程なくして車のエンジン音が聞こえ、次第に遠のいていく。
「ほんとめんどくさい人……」
私はそう呟いて、扉の鍵を締めた。



