なるほど、出勤要請ですね。
この3日でどれだけ部屋が散らかったのか、奇妙な楽しみを感じる。
カレーなら日曜に揃えた調理器具で足りそうだ。
問題は、わりと材料が重いことくらいか。
仕事後の疲れた体には、多少堪えるかもしれない。
「辛さのお好みはありますか?」
「普通に中辛で。辛すぎるのは無理」
「お肉は牛・豚・鶏、どれがよろしいですか?」
「うーん、やっぱ牛かな。薄切りじゃなくて角切りの。ていうか」
堤さんはいったん口をつぐんで、突然私の方へ手を伸ばしてきた。
よける間もなく肩ほどの長さの髪を私の耳にかけ、距離を詰め、少し身をかがめて。
彼の口が私の耳元にあるのを、熱のこもった呼気で感じた。
「俺たち、プライベートなお付き合いをしてるわけだし、かたっくるしいから敬語なんて使わなくていいんじゃね?」
小声というよりはほぼ吐息とも言える声。
振動と熱がダイレクトに伝わり、ゾクリと全身を駆け巡る。
「ちょっ……! 妙な距離感で変な言い方しないでくださいよ!」
私は慌てて彼から離れた。
吐息を感じた耳に髪をかぶせ、テンポを上げている心臓を落ち着ける。
プライベートなお付き合いって、私たち、恋人同士じゃあるまいし。
距離感がおかしい。
イジって遊ぶって、こういうことなの?
もっと殴ったことに対してネチネチやられるんだって思ってたのに、なんか思ってたのと違う。



