取引先の営業マンである堤凛太郎の部屋に、初めてお邪魔した日から3日。

月曜、火曜は業務のことでメールのやり取りをしたけれど、彼と直接会うことはなかった。

しかし本日水曜日は、午後2時より彼との打ち合わせの予定だ。

私の勤めるここ株式会社ラブグリーン本社へ、彼が来ることになっている。

我が社は『ラブグリーンマーケット(略称:ラブグリ)』という、オーガニック製品を中心とした自然派ホームケア用品の専門店を運営している。

首都圏や地方都市を中心に、店舗数は現在23。

私はラブグリで販売する商品を発掘して買い付けるバイヤーだ。

2年前にチーフバイヤーに昇格してからは、バイヤー業務だけでなく、様々な部署と手を取り合い、ブランディングや広報の仕事にも携わっている。

私が打ち合わせに向けて準備を進めていると、入社2年目の後輩、松田(まつだ)が、いつものように目を輝かせて私にすり寄ってきた。

彼女は堤凛太郎ファンのひとりである。

「山名さぁん。今日はこれからりんりんが来社するんですよね?」

彼女にはいい加減ブリブリした話し方を改めてほしいのだが、直らない。

「そうだよ。課長も入れて、3人で大事な打ち合わせ」

彼女の目的はわかっている。

「私がお茶出し、してもいいですよね?」

彼女は少しでも堤さんに近づくため、彼が来社する際は毎度お茶出しを志願するのだ。

「うん。お願いします」

他の人が来社したときは見向きもしないくせに、現金すぎていっそ清々しい。

「やったぁ! この間仕入れた美味しいフレーバーティー、持っていきますね」

「ありがとう」

おかげで私はいつも美味しいお茶を頂けている。