恋が叶ったことに夢中になりすぎて、肝心なことを聞くのを忘れていた。
誕生日前日。
長時間話し合った甲斐なく、取引の話はまとまらなかったはずだ。
「どうしても悔しくて、諦めたくなくて。また粘った」
「あれだけ話し合ってダメだったのに、よく相手にしてくれたね」
「会社……というか社長の意向はどうであれ、あのふたりは俺たちに好意的だったからね。それに、最後のマヤの話を聞いて、やっぱりなんとかしたいって思ってくれたみたいだよ」
「そっか。話してよかった」
「まあ、条件が厳しかったから、会社には大袈裟に理由付けて稟議もぎ取ったけどね」
彼は仕事で使っているバッグからさっき課長に突きつけた契約書を取り出し、該当するページを開いた。
そこには、契約期間は2017年4月からの1年間のみ。
ブルーメが直営店を出す都道府県では、ラブグリでの販売を認めないという記載がある。
ブルーメは近々大幅に直営店を増やすため、出店予定のない盛岡、金沢、岡山、熊本の4店舗でしか販売ができない。
その後契約が更新されるかどうかは、まだわからない。
「それでもラブグリで扱えることになって嬉しい。本当にありがとう」
「どういたしまして。ていうか、マジで今日契約取れてよかった……!」
今度は彼が甘えるように、正面から私の肩に頭を埋める。
労るように彼を抱きしめると、ほんのりブルーメの残り香がした。



