課長は契約書を閉じ、堤さんへと返した。
「お見事。うちの山名を、よろしくお願いします」
沸き上がる拍手と歓声。
堤さんは勢いよく、そして深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
彼が少し目を潤ませている。
それを見た私こそ、もう堪えられなかった。
どんなに辛くて悔しいことがあっても涙を我慢することができたし、会社のみんなの前で泣いたりしたことなんてなかった。
しかし今、こんなにみんなの視線を集めているのに、目からポロポロ涙がこぼれるのを止められない。
恥ずかしいけれど、嬉しい気持ちで流れ出る涙を止める術を、私は知らない。
「あー! 堤さんが山名さんのこと泣かせたー!」
松田がわざとらしく大声をあげる。
こちらを振り返った堤さんは、私の様子を見て明らかに動揺した。
「ちょ、マヤ、え、嘘でしょ? 泣きすぎ」
「だって……」
「マスカラ取れてる」
「うるさい」
精いっぱい睨みつけるが、こんなにボロボロ泣いていては格好つかない。
触るともっとひどいことになるのがわかっているから、下手に隠すこともできないのだ。
「山名さん泣いてるし、君たち、もう帰れば?」
課長のひと言に、堤さんはようやくいつもの甘くて爽やかな笑顔を見せた。
「そうします。僕は始めから彼女を持ち帰るつもりでここにうかがいましたから」



