「堤さん」
「ん?」
「私、沖縄料理屋より堤さんの部屋に行きたい」
また少し勇気を使った。
だって、あと数時間。
30歳になったら恋愛しちゃいけないなんてルールはないけれど、リミットがあるからできることもあると思った。
煮え切らないのは彼なりに理由があるのだとわかっている。
でも、なにもせずに後悔したくない。
堤さんは少し驚いた顔をした。
「この時間から?」
「うん」
「明日も仕事なのに?」
「うん」
だんだん困惑を滲ませる。
迷惑だっただろうか。
でも、もう引っ込みなんてつかないし、勢いに任せた先にしか出口はない。
「うちには飯も酒もないよ」
「いらない。ただ、ふたりになりたいの」
堤さんはなにか言おうと口を開いたが、そのまま息を飲んだ。
彼が沈黙している間に車両のドアが閉まり、やがて発車する。
「今日中に帰れなくなっても知らねーぞ」
「いいよ」
「そうなったらあんまり寝かせてやれる自信ねーぞ」
「いいってば」
わかってないな。
自宅に帰ってゆっくり眠ることなんかより、あなたと過ごすことの方がずっと大事なのに。
「明日会社で……」
「つべこべうるさい。いいから今日くらい私に流されて」
じれったくてイライラする。
あいにく私は受け身なタイプではないし、気が長い方でもないのだ。



