羽田空港に着陸したのは午後8時50分頃。
行きのフライトとは打って変わって、ふたりとも眠らずに空の時間を過ごした。
お互い会社には『今日は直帰する』と言ってある。
私たちは住まいが近いから、空港から利用する電車も同じだ。
空港隣接の駅で列車を待っているとき、それまでほぼ無言だった堤さんが、暗鬱な面持ちで尋ねてきた。
「本当に、あれでよかったのか?」
「うん。惜しかったけどねー」
あえて明るく返したのに、彼は暗い顔のままである。
ブルーメを出てからずっとこの調子だ。
爽やか好青年が嘘のように辛気くさい。
「いつかマヤが泣き出すんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてた」
思いもよらなかった彼の言葉に、私は驚いて変な声を出した。
「へ、は、はあっ? なんで?」
「マヤ、朝からずっと不安そうな顔してたし。契約取れなかったら泣かれると思ってた」
男は女の涙に弱いとは言うけれど、私の涙をそんなに恐れていたとは思わなかった。
「いやいや、私、仕事で泣いたことなんか一度もないからね。私から涙を連想した人なんて堤さんが初めてだよ」
泣きそうになったことは何度もあったけれど、姉御のプライドで堪えたのだ。
仕事相手に涙なんか見せてたまるか。
これだから女は、なんて言わせる隙を与えるだけだ。



