堤さんはこの場を仕切り直すように、いったん強く息をついた。
そして再び私と対峙する。
「マヤと隣同士で座りたかったから」
「え……?」
今、マヤって呼んでくれた。
たったそれだけのことで、私の不安はスッと軽くなる。
だって彼が私を名前で呼んだということは、私たちの2ヶ月間をなかったことにしなくていいということなのだ。
「おのおの取ったら、席がバラバラになるだろ」
「うん、そうだね」
思いがけない言葉に驚いたり安堵したりで、冴えない返答しかできない。
彼は不服そうに目を細めて唇を尖らせた。
「なんだよ、その微妙な反応は。俺の隣は嫌だった?」
私は慌てて首と両手を左右に振る。
「まさか! 私、堤さんは私と離れたいのかもって思ってたから、嬉しくて」
そんな私を見た彼はご満悦な表情になった。
ふたりのときにだけ見せるちょっと意地悪な笑い方に、胸がキュンと疼く。
「俺がマヤと離れたいだなんて思うわけないだろ。バカだな」
「バカって……失礼な」
「さて、行こうか。ラストチャンスだ」
「うん!」
フライト時間は約2時間。
私たちは席に座るなり、どちらからともなく手を繋いだ。
日々の激務で困憊していたため、双方離陸してすぐに眠りに落ちていたようだ。
着陸時の衝撃を感じるまで、お互いに目を覚まさなかった。



