いつもは部屋に入るなりネクタイを放ってスーツを脱ぎ捨てる堤さんが、ネクタイを緩めることすらせずに私を部屋へ招き入れる。

「お茶を淹れるね」と言ってキッチンに立った私のそばから片時も離れない。

湯が沸く間、そしてティーバッグから抽出している間はキスの嵐。

こんなにも当たり前のように抱き合い口づけを交わしているのに、どうして私の求める肩書きをくれないのだろう。

キャラメルフレーバーのルイボスティーの甘い香りが漂う。

準備ができたところで寝室にあるローテーブルのいつもの位置に落ち着いた。

さっきまであんなにくっついていたのに、微妙な距離がもう辛い。

堤さんは一度深呼吸をして、はじめから詫びるような口調で語りはじめた。

「明日、正式に会社から連絡を入れるんだけど、俺がラブグリのために集めたフローリングシートを、ラブグリに回せなくなった」

「え……どうして?」

「大手の都市型ホームセンターに取られた」

「取られた?」

「オリオン側の意向だよ。全国23店舗のラブグリより、100店舗を越える大手を選んだんだ」

詳しいことは知らないのだが、実は数年前、堤さんが勤めるイズミ商事とオリエンタル・オンはトラブルを起こしている。

女性関係がどうたらという噂をざっくり聞いたことがあるが、どうやらイズミ側が全面的に悪かったようで、イズミはオリオンに対して、いいなりというほどではないが、あまり強く出られない。

この事情が関わっているだろうことは、なんとなく察することができた。