恋愛じかけの業務外取引


「なんか、怖い。今入ったら悪い話しか聞けない気がして、足が動かない」

正直にそう告げると、堤さんはますます悲しげな顔をした。

もうこのまま帰ってしまおうかと考え至った瞬間、彼の両腕が伸びてきて、私の視界がまたたく間に暗転。

感触と温度、そしてにおいから、彼に抱きしめられたことがわかる。

反射的に抱き返すと、より彼が私を強く抱き締め、肩に顔を埋める。

まだなにも聞いていないのに、彼の苦悩が流れ込んでくる。

私の不安は倍増した。

「マヤ……チューしていい?」

助けを求めるような、痛々しい声。

「うん、して」

縋りつくようなキスは、甘さの中に強烈な苦さを伴っている。

「はぁ……ダメだ。俺、完全に弱ってる」

「そうだね」

「だっせーな。マヤにこんな俺見せたくないのに、なにやってんだ俺」

喉から絞り出した声が切ない。

一体なにがこんなに彼を苦しめているのだろう。

私は冷たくて重い雰囲気をなんとかしたくて、努めてライトに返す。

「ふだんパンツがないって泣きついてくるくせに、今さらカッコ付けても意味なくない?」

「ふだんそんなだから、仕事ではカッコいいとこ見せたいと思うだろ」

仕事……。

やっぱり、仕事のことでなにかあったのか。

彼が仕事に対してシビアなのも、真面目なのも、出会ってからの半年でとくと見てきた。

そんな彼が評価されて会社に期待されていることも知っている。

「わかった。部屋に入って、ちゃんと話聞くよ」