恋愛じかけの業務外取引


堤さんに会える。

堤さんが私に来てほしいと言っている。

心が不安定すぎて、その事実だけで泣いてしまいそうだ。

深呼吸し、丁寧に文字を打って返信。

【仕事が終わり次第うかがいます】

私は残りの仕事を全速力で片付け、オフィスを出た。

ビルのエントランスは午後9時ですでに閉められてしまっているため、裏口から出なければならない。

そのわずかな遠回りでさえもどかしく感じた。

早く……早く会いたい。

小走りで駅へ向かい、ちょうどやって来た電車に飛び乗る。

呼吸を整え、電車に乗った旨を連絡した。

彼の最寄り駅は私の最寄り駅よりも3駅前。

寝不足で疲れているけれど決して寝過ごしたりしないよう、車内では彼とのLINEのやり取りを読み返して過ごした。



定刻で到着した列車を降り、改札を出た。

目の前の柱に堤さんが寄りかかっている。

どうやら私を待ってくれていたらしい。

コートは着ずスーツにマフラーを巻いているだけだなんて、寒くないのだろうか。

「お疲れ、マヤ」

彼が私に気づいて微笑むと、胸が締め付けられて心が温かくなった。

「堤さん、お疲れさま」

会いたかった。とても。

「飯は?」

「コンビニで買って会社で食べた。堤さんは?」

「俺も同じ。じゃあ、とりあえず帰るか」

「うん」

彼の部屋を訪れるためにもう何度もこの駅を利用した。

通い慣れた道。

当たり障りのない会話。

微妙な距離感。

私は大いに意識をしているのだが、彼の手はジャケットのポケットに入っており、繋がれることはない。