「俺のそばじゃ、安心して眠れない?」
「そうじゃない。わかってるくせに、どうしてそんな意地悪言うの」
私はこんなに切ない思いをしているのに、嬉しそうに口角を上げる彼が腹立たしい。
「そりゃあ、もっとマヤの気を引きたいからだよ。人は思い通りにいかないものに執着する」
やっぱりわざと私を翻弄しているのか。
「私を執着させて、なにがしたいの」
「ゆくゆくは俺に依存させたい」
「なに、それ……」
清潔感満点の好青年から放たれる、毒々しい言葉。
まるで意味がわからない。
私になにをするつもりなのだろう。
「俺がいないと生きていけなくなればいい。言っただろ。慰謝料の倍額分こき使ってやるって。倍じゃ済まないけど、俺に依存して一生俺の面倒見てろよ」
「都合のいいとこだけ聞けばプロポーズみたい」
「そうかもな」
ひどい男だ。
そこまで言うのなら、もっと私をその気にさせて利用してくれればいいのに。
私を依存させたいのなら、私が求めているものをちょうだいよ。
私なんぞに愛は与えられないというのなら、せめて勘違いさせてよ。
そうすれば単純な私は幸せな気持ちになって、きっとすぐに依存する。
「ねえ、堤さん。やっぱ私、堤さんが好きだよ。私と付き合って。私を彼女にして」
見つめ合って、数秒の沈黙。
「じゃあ……俺をその気にさせてみなよ」



