こんなにも甘い雰囲気の中で、私はまた一抹の不安を感じた。
しかしすぐ全身を巡る幸福感にかき消されてゆく。
「もう。お風呂入ってきて。その間にご飯温めて準備するから」
「うん」
いつもより少し長めに温まった堤さんにご飯を出し、食べ終えたら片付けて、カフェインの入っていないキャラメルフレーバーのルイボスティーを飲んだ。
お互いの寝支度が済んだ頃にはもう午前2時を過ぎており、一週間の疲れもあって、もうすぐにでも眠りに落ちてしまえる状態……のはずなのだが。
「マヤ、寒いだろ。おいで」
好きな人のベッドに誘われている状況への緊張と興奮で、眠気がくる兆しがない。
私はベッドには入らず、脇に突っ立った状態で呟いた。
「私、やっぱ帰ろうかな。タクシーでもそんなにかからないし」
「はぁっ? 今何時だと思って……」
「だってなんか、眠れる気がしない」
ぐ、と拳を握りしめる。
ベッドの中に入れば、堤さんはきっと私を温めてくれるだろう。
甘えるように抱きついて、甘やかすように抱きしめて、思わせぶりにキスをして、そしてたぶん、今夜も未遂で終わらせる。
私をイジって楽しむためにあえてチャラチャラして見せているけれど、堤さんはきっと、自分を好いている女をいい加減に抱いたりしない。
そうでなければ私はとっくに彼に食べられていたはずだ。
私が感じていた不安の正体がわかった。
散々その気にさせられたのに拒否されてしまった苦しさは、まだ記憶に新しい。
私はあの日のショックを恐れている。



