恋愛じかけの業務外取引


「上島はどうなの? あんたもそろそろ結婚適齢期でしょ」

結婚してもバリバリ働いてくれそうな女は見つかった?と嫌味の一発でもお見舞いしてやろうかと思ったが、打たれ弱い彼には毒が強すぎるだろうと思い止まる。

「適齢期ってだけで、俺はたぶんまだ結婚には向いてないと思う」

私の問いに、上島はそう自虐する。

「そうだね。私も向いてないと思う」

私は素直な気持ちで返した。

もともと「そんなことないよ」などと無責任に励ますような女ではない。

「元カノに言われるとグサッとくるね。俺だって反省してるんだよ」

眉を八の字に下げ、媚びるような反省顔。

このタイプの顔は、こういうシーンで有効だからズルい。

「反省? なにを?」

「マヤさんに言ったこと」

「ああ……」

あの時のセリフなら、一言一句足りとも忘れてはいない。

『嫁さんと子供を俺ひとりで養うとか、今どき普通に無理っしょ』

『結婚したら働く気がないとかさ。正直、期待外れなんだけど』

私も別に、結婚したら絶対に働かないつもりで『夢は専業主婦』と言ったわけではない。

なってみたいだけだ。

だけど、妻と子供を養おうという気概のない男性に人生を預けられるほど、戦い続ける覚悟はない。

「男としてすげーダサいこと言ったなって、今は後悔してる」

私以降の恋愛でも、なにかそれらしいことがあったのだろう。

人も時間や経験とともに、少しずつ変わっていく。

「今頃気づいたか大バカ野郎」

「あはは。でも、ちゃんとマヤさんのこと好きだったよ」

「あっそ」

嫌な感じで別れたけれど、今こうして冗談を言ったり笑ったりできるからよかったと思う。

私は私でかわいくない部分が多数あったことを反省しているのは、またいつか別の機会に話せたらいい。