「苦しいに決まってる。せめて堤さんの気持ちも聞かせてよ」

睨む気力すらなくなった私は、力なく求める。

しかし私の要望は、表情を変えない彼にあっさりと却下されてしまった。

「嫌だね」

「どうして」

「言っただろ? 俺、恋愛にはかなり慎重なんだよ」

そんなの、私は気持ちを明かしたのに、フェアじゃない。

そう思い至って、ハッとした。

そもそも私たちの関係がフェアではないことを思い出したのだ。

私は彼を傷つけた加害者で、彼に奉仕することで社会的制裁を逃れた卑しい女。

彼はこんな私に十分よくしてくれていたはずだ。

だから好きになった。

これしきのことでへこたれている場合ではない。

「つまり、私は即決できるほどの女ではないということですね。よくわかりました」

吹っ切れたように告げると、彼は少し表情を歪めた。

「……そうきたか」

「帰るね。堤さんのせいでムラムラしてるから、ナンパに遭ったらうっかりついて行っちゃうかもしれないけど」

精いっぱいの嫌味で反撃。

そして少し乱暴な動作で自分のコートとバッグを手繰り寄せた。

そのまま早足で玄関へ移動すると、彼が大股で追ってくる。

「おい!」

「冗談だよ。明日は仕事だし着替えもないから」