翌日、午前10時。
送られてきた住所を頼りに、一応の菓子折りを持って堤さんの住まいにやってきた。
自宅から最寄り駅まで15分、電車に乗って15分、降りた駅から歩いて10分弱。
閑静な住宅地の一角に建つ、わりと新しい全て角部屋の2階建てアパートだ。
敷地内に駐車場もあり、車が2台停まっている。
どの部屋にも表札は出ていないが、送られてきた住所によると101号室に住んでいるという。
男の独り住まいにお邪魔するのは何年ぶりだろう。
前に付き合っていた人は私と同じで実家住まいだったし、大学時代が最後だった気がする。
なんか、緊張するなぁ。
どんな顔をして出てくるのだろう。
一度深く息をついて、101号室のインターホンをプッシュ。
機械的なチャイムが2回鳴り、応答を待つ。
しかしインターホンでの応答はなく、部屋の方から足音がして、直後、目の前の扉が開いた。
「おはよう、山名さん」
出てきたのは、いつも仕事で見るような、爽やかな笑顔の堤さんだった。
髪はセットされておらず、着ているのもラフな部屋着である。
ゆるめのスウェットパンツにボーダーのカットソー。
気張らない感じが、いっそう癒し度を上げている。
しかし、左の頬骨のあたりには、赤黒くて痛々しいアザが。
改めて湧いてきた罪悪感に堪えられず、目を逸らす。
「おはようございます。おとといは大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……」
「とりあえず、どうぞ。かなり散らかってるけど」
堤さんはまったく気にしていないというように軽い話し方だ。
「お構いなく。片付けるために来ましたので」
彼が広く扉を開けたので、おずおずと中へ。
暖色系のライトに照らされた狭い玄関で靴を脱ぎ、部屋へと足を踏み入れた。
……が、私は2歩目を踏み出すことができなかった。



