掛け布団に顔を埋めていると、ドタドタ廊下を走る音がした。
「マヤ姉、ユリ姉、開けるよ!」
返事も待たずに扉を開いたのは、弟のアキだ。
非力なもやしっ子で、中性的な顔立ちの大学生。
頼りないけれど心は優しい、こちらも私とは似ていない美男子である。
「もうアキ! どうぞって言ってから開けてって言ってるのに」
ユリが咎めるのも構わず、アキも私のベッドに飛び乗った。
再び体が弾んで、二日酔いの頭にさらなる刺激が。
「マヤ姉。玄関に放置してる携帯がブーブー鳴ってうるさいんだけど、これって昨日の彼氏じゃね?」
「はあ?」
アキが持ってきた私の個人携帯のディスプレイを、私に見せつける。
そこには受信して間もないLINEのメッセージがポップアップ表示されていた。
送信者は【堤凛太郎】と表示されている。
連絡先は社用携帯しか知らなかったのに、酔っ払っている間にLINEを登録されていたらしい。
【明日午前10時、自宅で待ってる】
「きゃー! 自宅デートのお誘いじゃん」
ユリが余計にテンションを上げる。
「マヤ姉、これは神様がくれた結婚へのラストチャンスだ。あんなイケメン逃したらダメだって。ほらすぐ返信して!」
アキは急かすように私へ携帯を押し付けた。
「だから違うってば。ていうか勝手に人の携帯を見るんじゃないよ」
仕事ばかりで男っ気のない私を心配してくれるのはありがたい。
だが、ふたりともいい加減姉離れしてほしい。
他にも受信しているメッセージがあるようだ。
期待に目を輝かせている二人に見えないよう、トーク画面を開く。
いずれも堤さんからで、ご丁寧に自宅の住所と個人携帯の番号が送られていた。
これは自宅デートのお誘いなんかじゃない。
初出勤の要請だ。
「つーかマヤ姉の彼氏、なんか顔腫れてなかった?」
ギクッ……。
「あ、それあたしも思ってた」
ふたりとも、そろそろそこをどいてほしい。
いろんな意味で頭が痛いし手も心も痛いから、今日はそっとしておいて。
私は私本人を差し置いて盛り上がるふたりの声をシャットアウトすべく、再びベッドに寝転び掛け布団を頭からかぶった。



