「私、洗濯と洗い物やるね」
「おう、サンキュー」
空いた食器を運びやすいよう集める。
これらの食器だって、ふたりで選んだお揃いのものだ。
特に深く考えずにセットの方が安いからと夫婦茶碗を買ったのだが、まさかここにきてそんな些細なことにまでときめかされるなんて。
あの日の私、グッジョブ!
「あ、洗濯が終わるまでの間、パソコン貸してくれない?」
「パソコン?」
「うん。せっかくいい案が浮かんだから、記憶が新しいうちにまとめておきたくて」
美術館は撮影禁止だったから、インスピレーションを得た化学実験室の展示の記録は脳内にしかない。
アイデアが溢れている今のうちにやってしまいたい。
「あー、それもそうだな。会社のパソコンは貸せないけど、個人のやつならお好きにどうぞ。ちなみにパスワードは“rinrin223”ね」
ずいぶんあっさりパスワードを教えてくれちゃうのね。
本当にこの人は、私を信用しすぎだと思う。
「ありがとう。助かります。かわいいパスワードだね」
「凛太郎だから、昔からあだ名が“りんりん”なんだよ」
「うちの会社でも、裏ではりんりんって呼ばれてるよ」
「マジか」
堤さんのクライアントはうちだけじゃない。
きっと他社でも人気なのだろう。
「私はちゃんと堤さんって呼んでるよ?」
私がそう言うと、堤さんはちょっと不服そうな顔をした。
「マヤはそろそろ俺の呼び方を変えた方がいいと思うんだけど」
「りんりんって呼んでほしいの?」
「……違う。そう呼ばれるなら今のままでいい」
「ふーん?」
よくわからないけど、パスワードに使っているわりに“りんりん”というあだ名をあまり気に入っていないようだ。



