おじさんはカメラを構えたかと想ったら、急にあたしの方に向ける。
そしてとたんにフラッシュ。

みゃー!! 何なの! いきなり!
おじさん怖いよう。

「フー!!」

一気に離れて威嚇すると、おじさんは楽しそうに笑った。
ちょっと笑い事じゃないわよ。びっくりしたじゃないの。


「上手く撮れてたらやろうか。お前はどこの猫だ?」

「みゃおん」


ミネちゃんのよ。あたし、ミネちゃんちのモカなんだから!


「……帰るとこないならうちに来るか?」

「みゃー」


大丈夫だってば。あたしはちゃんとおうちがあるの!


「……なんて、な」


おじさんはくしゃりと笑うと、またカメラをかまえて今度はお月様を撮りだした。

変なおじさん。よくわかんないけど、なんだか寂しそうね。


ウワキについても、教えてくれないみたい。
困ったなぁ。


「……ちゃーん、モカちゃーん」


やがて、ミネちゃんっぽい声が聞こえてきた。
半泣きであたしの名前を呼んでる。


「大丈夫だって。勝手に帰ってくるよ」

「知らない! 片瀬くんの馬鹿。よりによってベランダに出しちゃうなんて。モカちゃんが怒って出て行くの当たり前じゃないの」

「だって、あの状況でみゃ―みゃ―鳴かれたら落ち着かないだろ」

「それにしたってベランダは無いでしょ?」