その後も、サクラの花びらはひらひら舞い落ちる。
春は、恋のキセツ。
ポカポカしてて好きだけど、今年はちょっと寂しいなぁ。
あたしも、誰かに恋が出来ればいいのに。
そうして、ママみたいなママになるの。
それってどう?
素敵じゃない?
あたしの考えをバカにするように、鼻に花びらが落ちてくる。
なによう。あたしもう子供じゃないのよ。
恋くらい、出来るよう!
その時、お店のドアが開いて、こおひぃの匂いがぷーんとした。
でてきたのは、こおひぃさんだ。
良かった。おばさんのほうだと、あたしのこと嫌がるのよね。
「やあ、小さなお客様。今日も来てくれてたんだね」
「みゃーおん」
こんにちは、こおひぃさん。
「あはは。今日は花びらでおめかしかい? かわいいね。はい、特別サービスだよ」
口元に手をあてて、こおひぃさんは花壇の陰にミルクを置いて行ってくれる。
絶対中には入れてくれないんだけど、こおひぃさんは時々こうやって、あたしの乙女心をくすぐる。
「にゃおん」
ありがと。こおひぃさん、いい人ね。
カタセくんより、断然イケメンさんだし。
あたしと恋をしてくれるのが、こおひぃさんだったら良かったのに。
でもこおひぃさんには恋人がいるみたいだしなぁ。
あーあ、つまんない。いい男にはいつだってすでに相手がいるんだわ。
あたしはお皿のミルクを綺麗になめとって、ひと鳴きした。
「みゃー」
「ごちそうさま、かい? お行儀がいいね。モカちゃん」
うん。ごちそうさま。
ミルクでお腹も一杯になったら、イライラも飛んでいっちゃった気がするよ。
ありがとう。
こおひぃさんに見送られて、あたしは家に向かって走り出す。
心なしか足取りは軽く、帰る家があることに、幸せな気分になる。
幸せになるのに一番手っ取り早いのは、お腹を一杯にする事なのかもね。
【fin】