「さっきの方、マスターさんの奥さんなんですか?」

「あ、いえ」


こぉひぃさんは、ミネちゃんから目をそらして、小さくなっていくさっきの女の人の背中を見つめた。
走っているんだけど、靴のせいなのか遅いのよね。
まだまだ余裕で追いかけられそうなところにいるわよ。


「……昔の、知人で」


髪の毛を触るように、手で顔を隠したまま、こぉひぃさんは小さく笑う。
でもあたしはちっこいから、下から見えちゃうのよ。

こぉひぃさん、どこもぶつけてないはずなのに、すっごくつらそうな顔してる。


「……みゃーおん!」
追いかけなよ、こぉひぃさん。


あたしがそう言ったら、ミネちゃんもハッとしたように、顔を上げた。


「私は大丈夫ですから。行ってあげてください」

「え?」

「さっきの人。追いかけるところだったんじゃないですか?」

「……ああ。そう、そうだね。でももういいんだ」


こぉひぃさんが、店の中をちらりと覗く。
そしてはあとため息をついた。


「……コーヒーをね。飲ませたかったんだけど。……飲んでくれなかったから」

「コーヒー、ですか?」

「昔の職場の同僚でね。……土日も関係なく働いて、仕事のない日も仕事のことばかり考えて。俺はね、そういう生活を変えたかった。何のために働いているのか、落ち着いて考える時間を持てるような店を作りたかった。でも彼女は、……俺が逃げたと思っているんだろうな」


こぉひぃさんのお店は、新しいけれど、お客さんがたくさんいる。
それはこぉひぃさんのいれるこぉひぃがおいしいからでしょう?
どうして逃げるになるの?