「今はわたし、どうしてあの時死にたいって思ったのかなって、そう思うようになった。辛いことって、いつかは軽くなっていくのかな。どう思う? モカちゃん」

「みゃー」

知らないよう。そんなお話難しい。もっと面白い話してよう。


「お返事、なんて書けばいいのかなぁ」

彼女の呟く声は、セミの声に負けちゃいそう。

困ったなぁ。
わたしは元気よ、とかじゃ駄目なの?
何でもいいと思うんだけど。お返事なんて。

ああもうー。面倒くさいよう。
暑いし帰る! 帰らせてよ!


「みゃーおん」

さよなら。悪いけど帰るわ。

そう言って、ピンと尻尾を立てたとき、女の子は「えっ?」って声を出してあたしの尻尾の先を見た。

その子の視線が、尻尾から更に上へ上へと行く。
あたしの目に見えていたその子の鼻が見えなくなって顎だけになった。

あんまり、上を見上げてる人間の姿を見たことが無くって。顔が無くなるんだーなんて思いながらボーっと見てしまった。


「空……」


ちょっと熱のこもった声で、その子が呟く。
つられて見あげれば、確かに青い空が広がっている。さっきの白い蝶が白い雲になったみたいに、蝶々の形の雲が、いっぱい浮いていた。