「ぶみゃーお」
いかないよ、どこにも。

カズコさんの鳴き声に、お父さんはようやく破顔して、愛おしそうに彼女を撫でた。

「よしよし」

「ぶみゃーお」

カズコさんも嬉しそう。
おとうさんと仲良しなのね。 

しばらく固まっていたミネちゃんが、正気を取り戻したかのように、お父さんとは反対側のテーブルに両手をついた。

「ちょっとお父さん、片瀬くんが言ってるのは私のことよ?」

「お嬢さん、なんて言うからだろ。美音はもう大人だ。仕事を決めてこのうちを出たときから、もう俺の言うことなど聞かない。俺の許可などいらないだろう」

にやりと笑う。どうやらおとうさん的ジョークだったらしい。

「……お父さんは、美音さんのお父さんです。いくつになっても、変わらないじゃないですか」

カタセくんがそう言ったら、お父さんは「ほう」と興味深げだ。

「君は俺の酒に付き合ってくれそうな子だな。……美音にしちゃいい男を選んだじゃないか」

「お父さん」

美音ちゃんとお母さんが目を潤ませている。
あーあ、単純だなぁ。

あたしはカズコさんがいなくなった後のカタセくんの膝に乗る。
普段、アパートでもあたしがカタセくんに近づくこと、まして膝の上に乗るなんてことはないからら、食い入るようにあたしを見てる。

「……モカ?」

「みゃーん」

おめでとう、くらいは言ってあげるわ。
カタセくんが、美音ちゃんのこと本当に好きなことは、知ってるから。