「それでですね。その。……ちょっとよいてくれないかな」
膝からカズコさんをよかそうとするけれど、阻止するように爪を布地に食い込ませるカズコさん。
無理よ、諦めなよカタセくん。カズコさんにかなうわけないじゃん。
「ああ。……もういいや、そのっ。今日はご挨拶させてもらいくて。美音さんとお付き合いさせていただいてます。その、お嬢さんを僕にくださいっ」
ぺこりと頭を下げるカタセくん。当然膝にいるカズコさんとは密接しちゃう。カズコさんが嫌そうに尻尾を揺らした。
ミネちゃんは、息をつめたままカタセくんとお母さんたちを交互に見ていた。
「あらー」と嬉しそうなおかあさんに、仏頂面のおとうさん。
あれ、反応、バラバラだね。
「……大事な娘だ。君にはやれん」
おとうさんのひと言で、場が固まる。
「え、ちょっとぉ、お父さん」
なぜか一番残念がるお母さんに、「はぁ? お父さん、何言ってるの?」と突っかかっていくミネちゃん。
ああ、修羅場だわ。
カタセくんも一瞬青くなったんだけど、機を取り直したように顔をあげて、「どうしてですか! 僕に至らぬところがあるなら言ってください。直します」と宣言した。
お、いいよ、カタセくん。ちょっと格好いいよ。
しかしながらおとうさんも負けてはいない。テーブルにドンと両手をついたかというを、眉間にしわを寄せたまま「ダメだ!」と言い切った。
「なんといわれてもカズコさんはやらん!」
「は? カズコさん……?」
続いた言葉に、みんなが固まった。
カズコさんだけが、のそりとカタセくんの膝から立ち上がり、やはりのそのそと貫禄ある歩き方で、おとうさんの膝の上まで行った。



