四月にはピンク色のサクラが咲き誇っていた木が、今では目を癒す緑色に変わっている。
校門にこの木があるのは癒されるからちょっと好き。

先生のおはようございますを無視して靴箱へ向かう。
わたしの上履きはわたしの心のように汚かった。こんな自傷を笑ってくれる人はいるはずもなく、わたしは心の中で自分自身を嘲笑って教室へ向かった。


教室はとても賑やか。それはいつものことで、わたしにとっては雑音でしかない。自分の席に向かって足を運ぶと、わたしの列の隣の列で一番前の席である学級委員長におはようと言われた。


委員長はいつも言ってくれてるから、流石に無視は出来ずに「おはよう」と小さい声で応える。


クラスの人の名前なんて覚える意味がないからほぼ分からないが、委員長やクラスの目立つ人、同じ図書委員の人やよく本を借りている人くらいは覚えている。

委員長の名前は間宮千尋(マミヤチヒロ)。

ザ真面目とでも言うのだろうか。肩まである黒い髪に勉強が出来そうな感じの眼鏡をかけている。まぁ実際に勉強は出来るんだが。ザ真面目の委員長なんて真面目腐ってると思われて話の輪にいることは少なかったりするが、彼女は違った。人気者であるんだろう。いつも周りには人ばっかりだった。


「あ、そうだ山野さん」


席に着いたときに委員長から声をかけられた。


「……なに?」


「今日の放課後図書委員の仕事があるんだって。場所は資料室。葉山さんから」


「……分かった」


そう応えたわたしに委員長はニコッと笑って席に戻っていった。なんでわざわざ委員長がわたしに伝えるのだろうか。

葉山咲(ハヤマサキ)はわたしと同じ2年B組であって、わたしと同じ図書委員。別に同じクラスなんだからそういう報告に困ることなんてない。もしかしてわたし葉山さんから嫌われてる?話しかけづらいのか。まぁ実際同じ図書委員だが話したことあるのは三、四回しかない。


自分だって周りの人を好いていないのに、周りの人から好かれるわけがないのは分かってる。
嫌いだからといってわざわざ委員長に頼んでまで自分で伝えるのが嫌なのか。周りと一線を置いているわたしが言うことではないと思うが。


とりあえず、好かれてない。
別に嫌ではないが、これが孤独と言うのだろう。