家族は、檻に似ている。


振り上げられる拳が、顔面を狙って近づいてくる。

視界の端に、母が呆れたような顔をして見つめているのが映った。ただ、見ているだけ。父をなだめることも、子供をかばうこともない。


「この出来損ないが……!」


鬼のように顔を真っ赤にした父から振り下ろされる拳と、飛んでくる脚。

衝撃で床に倒れると、胸ぐらをつかまれて無理やり顔を上げさせられた。そして今度は父の大きな掌が勢いよく――





「……っ!」

声にならない声を発すると同時にハッと目が覚めた。
辺りを見渡し、ここが電車の中だということを理解するまで数秒の時間を要した。

「れ、蓮(れん)、だ、大丈夫……?」

隣から気を使ったような弱々しい声が聞こえてきて視線を向けると、観月(みづき)が長い前髪の奥から心配そうな視線を向けている。

「だ、大丈夫……」

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。しかもあんな夢を見るなんて最悪だ。傷が痛むからだろうか。本当に忌々しい。

じわりと額に浮かぶ嫌な汗を拭う。頭皮からも汗が噴き出しているような気がして、短い髪の毛を掻きむしりズリ落ちかけていたキャップを深くかぶり直した。

漆黒に包まれる時間帯の電車には、そこそこ人がいる。スーツ姿のおじさんやおばあさんやおじいさん、そして同い年くらいの学生。幸い誰も自分達を気にした様子はなかった。

こんなところで目立ちたくない。今の自分の顔が、人の目を引くことはわかっている。口端は切れて赤く腫れているし、目元にも頬にも青痣がある。キャップを深くかぶっていてもそれらを完全に隠すことはできない。

おまけに隣には観月がいる。

観月はぼんやりとした表情で前を見つめていた。
とはいっても、鼻先まである長い前髪に隠されているので実際にはよく見えない。

切りそろえられていない肩よりも長い観月の髪が、電車の振動で微かにさらさらと揺れている。不健康なほどガリガリな体は、どんな服を着てもぶかぶかでみすぼらしく見えた。

それなりの髪型をして、それなりの服装を身にまとえば、観月はまた違う意味で人の目を引くだろうけれど。


痣だらけの子供とやせっぽっちの子供。そんなちぐはぐな男女が一緒にいたら、誰が見たって〝ワケあり〟だと思うだろう。



ああ、早く遠くに行きたい。両親の手の届かない場所へ、誰からも傷つけられず、誰も傷つけない場所へ。