「僕の不注意だから君が謝ることじゃないよ」
ひえっ、なんて優しい人だ。
そう思いながら顔を上げた私は、その人の顔を見てそのまま固まった。
「大丈夫?」
「え、あれ、ええっ!?」
顔の前でぶんぶんと手を振られて、驚きのあまり腰が引けてしまった。
「久しぶり、水鈴」
にっこりと笑みを向けて私の頭を撫でる彼に、体が硬直していく。
彼の名前は桜庭彗斗(さくらば けいと)。
桜ちゃんのお兄さんで、私の初恋の相手。
幼い頃に彼のお嫁さんにしてもらう約束をしたくらい、大好きだった人だ。
「なっ、ななななんで!?」
「留学期間が終わったから帰ってきたんだ」
「えっ、早くない!?」
「もっと遅く帰ってきた方が良かった?」
「ううん! 帰ってきてくれて嬉しいよ!」
慌てる私にくすくす笑う彗ちゃん。
相変わらずの王子様っぽさにちょっと感心しちゃう。
彗ちゃんは高校1年生の私達よりも4個年上で、現在は大学2年生。
優秀者だけが行けるらしいアメリカへの留学から帰ってきたところだ。



